Beyond the Silence

Sound of Science

夢をあきらめない

突然ですが、宇宙飛行士を目指そうと思います。

                  

                     

           

・・・というのは嘘で、難聴持ちの自分にはそもそも応募資格がないのだが、小さい頃からずっと宇宙への憧れがあった。友人が「宇宙兄弟を自炊したものを持ってて、少し借りて読んだら止まらなくなって、Amazonのポイントで残り数冊買って27巻まで一気読みしてしまった。kindle最高。

 

宇宙兄弟(1) (モーニングコミックス)

宇宙兄弟(1) (モーニングコミックス)

 

 

時代は2025年。小さい頃から兄弟で憧れていた宇宙飛行士に、弟だけがなって兄はしがないサラリーマン。その兄が会社をクビになるところから話が始まる。いろいろ就職活動をするも不採用の連続で落ち込む兄・六太。ひそかに応援する弟・日々人。

家族が勝手に応募したJAXAの宇宙飛行士選抜試験・一次書類審査を通過してしまい、兄もふたたび夢を追い始める、という物語。

 

オススメ漫画100選!とかの企画でよく取り上げられている好評の漫画だったのでタイトルだけは知っていたけど、ここまで面白いとは思わなかった。読書といえば小説、たまにノンフィクションの自分にとって珍しく漫画にはまることになった、予想を良い意味で大きく裏切られた作品。

 

自分も子供の頃は愛読書はNewtonの宇宙大好き少年で、星や星座の名前、惑星の軌道半径とか大きさや衛星の数・名前なんかはだいたい覚えていた。1天文単位 (AU)= 149,597,870kmだとか、1光年= 9,454,254,955,488kmとかは未だに覚えている。

Newton(ニュートン) 2016年 05 月号 [雑誌]

Newton(ニュートン) 2016年 05 月号 [雑誌]

 

 

宇宙好きな子供の例に漏れず宇宙飛行士になりたい幼少時代を過ごしたのだが、宇宙飛行士の選抜条件

1 医学的特性 身長:158cm以上190cm以下

(注:宇宙服を着用して船外活動を行うには、約165cm以上が必要です。) 体重:50kg~95kg 血圧:最高血圧140mmHg以下かつ最低血圧90mmHg以下 視力:両眼とも矯正視力1.0以上

(注:裸眼視力の条件はありませんが屈折度等の基準があります。屈折度:+5.50~-5.50ジオプトリ以内、乱視度数:3.00ジオプトリまで、左右の屈折度の差:2.50ジオプトリまで。また、平 成20年6月20日時点で、PRK手術・LASIK手術の後、1年間以上を経過して恒久的な副作用 がない場合には医学基準を満足します。それぞれ医学検査時に評価します。)

色覚:正常

 

聴力:正常

 

(これは平成20年度の募集要項。多分昔のもLASIKとか無かったけどほぼ同じ)

をみて諦めざるを得なかった。応募すらできないというのが悲しかった。まぁ宇宙空間で何かあった場合に、重要な指示を一度で聴き取れず自分やクルーの命を危険にさらすリスクを考えると、視力は矯正でもよいが難聴は難しいのだろうか。

 

宇宙飛行士への夢は早々と断たれたわけだが、その代わりに上記のようなオタク知識を貯め込むこととなり、地元の進学校を経て、旧帝の物理学科へ進学した。自分の中学高校時代というのは、ちょうどStephen Hoking博士が有名になった頃*1で、理論物理学によって宇宙の謎を解き明かす、車椅子の天才に憧れた。漫画「宇宙兄弟」にも、博士と同じ病に苦しむ人物が登場する。

 

希望通り入った大学で、初めて自分の物理学への適性の無さを知ることになる。高校時代も物理で36点を取ったことがあるが、それなりに勉強は楽しかったのと、最終的には満点近く取れるようになったので、やれそうな気がしていたんだろうな。

橋元淳一郎の物理橋元流解法の大原則―試験で点がとれる (1) (大学受験V BOOKS)

橋元淳一郎の物理橋元流解法の大原則―試験で点がとれる (1) (大学受験V BOOKS)

 

当時お世話になった参考書。懐かしさのあまりup.

結局物理も数学も、高校までと大学以降ではまるで別物。数学はまだついて行けたけど、大学の物理は無理だった。だらだらと学生を続けてもよかったのだが、無駄に学費を払うのも親に悪いし、背水の陣で挑もうと思って退学した。辞めた理由はそれだけではないし、それに前後して医師を目指そうという気持ちが生まれた。

 

半年後に地方の医学部に入り、辛うじて6年で卒業して医師になった。物理や数学の知識は全く役に立たず、教養課程で単位として使えたことが唯一のメリットだった。あとは入学時点から堂々と酒を飲めたことくらい。卒業後はがむしゃらにやってきて臨床と研究の二足のわらじを履くことになり今に至るわけだが、ここにきてこれほどまでに宇宙熱が蘇るとは思ってもみなかった。今更仕事にしようとは思わないが、いちファンとして天文台プラネタリウムに出かけたい。

 

 

宇宙兄弟」、いろいろ調べたらアニメ化も実写化もされているようだ。全巻名シーン・名台詞があるのだが、ポピュラーなところはgoogle先生にお任せするとして*2、自分視点で2つ紹介したい。ネタバレ含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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月面電波天文台をつくる念願のプロジェクトにアサインされた瞬間の六太。グラント取れた時とか留学決まった時の自分を思い出したけど、月とかもうね、想像を絶する興奮だろうな。この電話は上官の室長バトラーからかかってくるのだが、室長のアドレス帳にあるNamba Muttaの次がNeil Armstrongであることなどいちいち芸が細かい。

 

もうひとつ、六太の同期飛行士である伊東せりか医師による宇宙実験のシーンを、医師・研究者の端くれとして挙げておく。せりか医師は父をALSで亡くしており、宇宙でALS細胞内封入体TDP-43の結晶化実験*3を行うが、製薬会社の恨みを買ってネットで風評被害を受ける。2chとかで炎上する構造が妙にリアル。

27巻の最後、逆風の中実験を続け、結晶化に成功したシーン

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はゾクゾクした。この瞬間は研究者の醍醐味。あと、実験の漫画じゃないのでアレだけども、無重力で表面張力のない液体を吸ったらマイクロピペットはどうなるんだろうか。そんてもって発生学者としては、脊椎動物の左右を決めるノード流*4が無重力環境ではどうなるのかを知りたい。

この後数ページで27巻が終わってしまったので、4/22発売の28巻 (kindleも同じ日なのかな?)が待ち遠しい。

 

宇宙兄弟(28) (モーニングKC)

宇宙兄弟(28) (モーニングKC)

 

 

 

長々と自分語りも含めて書いてしまった。

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幼稚園の卒業アルバム。表紙に「夢」を描いた6歳の自分から、今の自分はどう見えるだろうか。もしかしたら (もしかせんでも)ただのオッサンに見えるかもしれないが、恥ずかしくないように生きていきたい。

*1:博士はALS (筋萎縮性側索硬化症という難病、意識や思考は全く正常で筋肉だけが動かなくなる)に冒され、わずかな手の動きをコンピュータに伝えて意思疎通をしていた

*2:三次試験のじゃんけんとかNASAでのサバイバル訓練とか20巻の3人でゴツンとやるやつとか

*3:参考 http://www.sbsp.jp/sbsp/Sb/sb43/014.html

*4:発生初期にノードという場所にある繊毛が回旋することで、左右軸決定に必要なタンパク質を右から左に輸送する