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Beyond the Silence

Sound of Science

【読書】宮本輝の5冊

宮城谷昌光の書評が途中で止まっていることを漸く思い出したが、そちらはまた今度書かせて頂くとして

aurora3373.hatenablog.com

 

今日は我が精神の滋養剤たる宮本輝の小説・エッセイをいくつか紹介したい。

 
「泥の河」で1978年の芥川賞を受賞した氏は現在も芥川賞の選考委員を務めながら傑作を発表し続けている。
5冊に絞り込むのも大変なのだが、自分の琴線に触れた著作を厳選してお届けしたい。
 

命の器

 

新装版 命の器 (講談社文庫)

新装版 命の器 (講談社文庫)

 

 

発表されて今年で30年になるエッセイ集。人間は自分の境遇に似た人と交わっていき、そうでない人とは疎遠になっていく。ただの交友関係というよりももっと深い、生きる姿勢のようなものが共鳴する人と付き合うようになっていく現象を、命の器という短い言葉で若干自虐的にまとめてある表題作「命の器」、そして年齢を重ねていくとその人間性は口許にまず現れ、それは服装や化粧などでは誤魔化すことができないと述べる「貧しい口元」が、自分のお気に入り。座右の書である。

 

草原の椅子 

草原の椅子〈上〉 (幻冬舎文庫)

草原の椅子〈上〉 (幻冬舎文庫)

 

 50のおっさんに親友ができる話。と言ってしまうと身も蓋もないのだが、人間の美しい面、醜い面、それらは実は表裏一体でもあることが心に迫ってくる。

おっさんは2人とも魅力的な人物として描かれる。
物語中盤以降、おっさんのうち一人に新しい家族が加わるのだが、この小説はそれがゆえに一つの育児書でもある。小説中に登場する老医師が提唱する理論を紹介したい。
「ゴムホースの原理」
特に心の疾患で、治りかけた時に奇異な症状が現れることがある。それはきれいな水によって押し流され出てきたホースの中の汚れであり、それを見抜いて諦めずに水を注ぎ続けることが大切 (当ブログによる抜粋)

 というもので、いままさに小説中の少年と同年代の子を持つ自分としては、時々立ち止まって見返す必要のある本である。

佐藤浩市・西村雅彦・吉瀬美智子主演で映像化されている。Blu-rayを買って持ってきたが、こっちでBlu-rayを見る手段がなくて一度しか見てない。日本語字幕*1が入っていないのが難点で聴き取りにくい部分は脳内補完した。

草原の椅子 [DVD]

草原の椅子 [DVD]

 

 

 
 

優駿

優駿〈上〉 (新潮文庫)

優駿〈上〉 (新潮文庫)

 

1987年吉川英治文学賞受賞・第1回馬事文化賞受賞作*2サラブレッドの三大祖先のひとつであるゴドルフィン・アラビアンの血を引くという設定で、オラシオン (祈り)と名付けられた競走馬の、ダービー出走までの道程を描く。自分はダビスタから競馬の世界を知ったクチだが、馬だけでなく、騎手や調教師同士の人間関係、馬主の世界など普通に暮らしていると縁のない世界を垣間見ることができる。

 

まだ見てないけど、これも映画化された模様。みてみたい。

優駿 ORACION [DVD]

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 約束の冬

約束の冬〈上〉 (文春文庫)

約束の冬〈上〉 (文春文庫)

 
普通の女性の成長を描く感じの、最近の氏の小説ではわりと珍しくない主題。今どきこんなプラトニックな恋もないよな、と思いつつも、若い主人公達に感情移入して読んでしまった。たぶんこの本が出たあたりで、自分が登場人物の年齢を超えてしまったというのが大きい。ほとんどのプロスポーツ選手の年齢を超えた今甲子園が熱く見えるのと同じ感じか。
葉巻・ゴルフなど氏の十八番のネタもふんだんに使われていて、「いつも読んでる宮本輝の小説」な感じはあるけれども、だからこそ1冊だけ読むとしたらこれでもいいと思う。
この小説の中で引用されている徒然草の一節

 能をつかんとする人、「よくせざらんほどは、なまじひに人に知られじ。うちうちよく習ひ得て、さし出でたらんこそ、いと心にくからめ」と常に言ふめれど、かく言ふ人、一芸も習ひ得ることなし。

 未だ堅固かたほなるより、上手の中に交りて、毀り笑はるゝにも恥ぢず、つれなく過ぎて嗜む人、天性、その骨なけれども、道になづまず、濫りにせずして、年を送れば、堪能の嗜まざるよりは、終に上手の位に至り、徳たけ、人に許されて、双なき名を得る事なり。

 天下のものの上手といへども、始めは、不堪の聞えもあり、無下の瑕瑾もありき。されども、その人、道の掟正しく、これを重くして、放埒せざれば、世の博士にて、万人の師となる事、諸道変るべからず。

 は、ここで言うまでもないが本当に名文だと思う。そうだよなぁ・・・。

 
 
 

田園発、港行き自転車

初めてkindleで買った氏の著作。こちらに来て1年が経ち日本語の活字に飢えていた時に出たので飛びついた。たぶん宮本氏は実際に取材をした場所しか書かない*3のだろうが、少年時代、父親が事業に失敗し夜逃げ同然で逃れた富山県を、「嫌悪や憎しみ」の対象であったとエッセイに綴っている氏が、あらためて題材として選んだ背景には何があったのか。

富山県の田園地帯から東京の企業に就職し、コンクリートジャングルに疲れて退職する人物の故郷語りでこの小説は始まるが、そこには「嫌悪や憎しみ」の感情は全く感じられない。

複数の主人公による一人称が入れ替わる形で物語は進んでいく。やはりこれも女性の成長を描く本である。

 

 

こっちに来てkindleでしか本を読めない、さらには論文など書き仕事があって読書の時間が全く取れない時間が長かったので (現在進行形)、帰国後少しでも時間を作って、古典から文学小説、最近の文学賞受賞作、ノンフィクションなど色々な本を読みたい。そしてやっぱり紙の本が好きだ。読者登録しているいくつかのブログで紹介されている本が魅力的で、読みたい本リストがどんどん積み上がっているのが悩みの種です。

 

2016/07/11 23:54追記 何故かはてブ新着エントリー アニメとゲームのところに登録されました。どういう基準で選んでいるのか。いつもは「学び」か「テクノロジー」、このブログはカテゴリーに入れづらい記事が多いのかな。

*1:邦画も日本語字幕が必須。テレビのデジタル化で恩恵をうけた1人。

*2:JRA賞馬事文化賞 - Wikipedia

*3:氏の小説には同じ地名が繰り返し使われることから