少し前、id:browncapuchinさんからTwitterで質問を受けた。
ちょうど、新規抗インフルエンザ薬「ゾフルーザ」(塩野義製薬)の耐性化が問題になっているというニュースの直後だった。
1回飲むだけでよく効くという、子供を持つ親からすると夢のような薬。
(追記) 自分は「麻黄湯」派です。
しかし、感染症の専門家からは拙速な普及には否定的な意見も挙がっている。
ゾフルーザ採用見送り - 亀田メディカルセンター|亀田総合病院 感染症科
要点を抜き出すと、
・10%前後の耐性化リスク*1
・小児への安全性未確立 (そして小児はさらに耐性化しやすい)
・人にうつさなくなるまでの時間は他剤と変わらない
・非常に高価
とのことで、1回きりの飲み薬という、小児に使ってくれと言わんばかりの使いやすい薬はあまり小児にお勧めできないようです。
Twitter医学会の重鎮、EARL先生のブログに詳しくまとめてあります。
drmagician.exblog.jp
さて、ゾフルーザはどのような薬で、なぜ耐性化しやすいのか。
インフルエンザは、インフルエンザウイルスによって伝染する感染症で、感染症の例に漏れず治療薬への耐性が問題になる。発生学・再生医学畑の自分にとって感染症は専門外であるが、これを機に調べてみようと思っていたところ・・・
・・・ハードルが上げられました。
以下、合間に調べつつ少しずつアップデート予定。
インフルエンザウイルス*2は一本鎖RNAウイルスで、細胞内に取り込まれた後、感染細胞の遺伝子複製機能を乗っ取って (cap-snatching)自己の遺伝子をコピーし蛋白合成を行う。感染細胞内で大量に作られたウイルス蛋白が集合して細胞から出て行き、ノイラミニダーゼという酵素によって新たなウイルスが放出される。
これまでタミフル、リレンザ、イナビルなど複数の抗ウイルス薬が発売されているが、これらはウイルスの放出を阻害するノイラミニダーゼ阻害薬であるのに対し、新薬ゾフルーザは遺伝子複製のところを阻害するcap依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬である*3。
耐性ウイルス出現頻度は、様々なデータがあるが、近年のものではタミフルで約1%、翻ってゾフルーザでは10%近くにもなる。
1〜2万塩基に1つ程度の割合でウイルスのゲノムには変異が入る。これはヒトなどの細胞とは比較にならないほど高頻度で、この遺伝子変異によって抗ウイルス薬への耐性が獲得される。cap依存性エンドヌクレアーゼとノイラミニダーゼで変異の入り方に差があるのかどうかは、専門外なのでまだ答えに辿り着いていない。
cap依存性エンドヌクレアーゼはまさしくインフルエンザウイルスの生存戦略の鍵なので、変異は入りにくいはずなのだが*4、どうしてゾフルーザのほうが耐性化しやすいのだろう。
現時点での私見を述べるが、cap依存性エンドヌクレアーゼは合成後に核に移行し新たなウイルスゲノム合成のトリガーとなる。一方、ノイラミニダーゼは後期に合成され、修飾をうけて細胞膜に発現する。ウイルスの吸着→侵入→脱核→複製→集合→放出という環において、ウイルスゲノムが大量に複製されることを考慮すると、cap依存性エンドヌクレアーゼは、ノイラミニダーゼよりもはるかに多くの複製を経ているのではないだろうか。
これを読まれた中にVirologistの方がおられたら、 その真偽についてご教示願いたい。