ヤフーニュースに面白い記事が載っていた。
記事中の参照元の論文
PNAS 2016 published ahead of print March 14, 2016 doi 10.1073/pnas.1600140113
によると、
ティラノサウルスの祖先はジュラ紀中期 (1億7000万年前)に現れているが最初は小さかった。白亜紀 (1億4500万年前〜6600万年前)の間に巨大化しているが、1億年前〜8000万年前の2000万年の間の化石が見つかっていなかった。
この論文ではこの"Tyrannosauroid Gap"において初めて発見されたティラノサウルスの祖先、Timurlengia euoticaの化石を詳細に調べた。
同論文 PNAS 2016 published ahead of print March 14, 2016 doi 10.1073/pnas.1600140113 Fig. S3を改変
簡単に要約すると、白亜紀中期の新種の化石標本のCT画像を再構成して明らかになった内耳の形態は、1億年前以前の祖先よりも長い蝸牛管を持ち、より進化した大型のティラノサウルスと同様であった。このことから、内耳の進化による聴覚の発達が、大型化を促したのではないかと推察された。
っていう研究。超面白い!こういう研究って着眼点、アイデアが勝負どころで、見つかった化石の内耳を3D再構築したってのが凄いと思う。どうやって着想したのだろう。
内耳も生物の進化とともに少しずつ形が変わっていて、鳥類の内耳は蝸牛がストレート、哺乳類はうずまきになっている。恐竜の内耳ってトリの祖先だけあってストレートなんだなぁ。
蝸牛は音の振動が内部の液体を振動させて、整然と並んだ有毛細胞がその運動エネルギーを電気信号に変換する。波長の長い低い音は遠くまで届くので、長い蝸牛を持つ動物のほうが低い音を聞き取りやすい*1。つまり、新しく見つかったT-rexの祖先は、低い音を聞き取れることによって選択されてきた、という可能性がある。ライバルよりも先に餌を発見できれば生存競争にも有利。
そして、内耳というのは骨の管+膜の管の2重構造なので、骨が伸びるスペースがあったほうが有利。ティラノサウルスの頭蓋骨はスカスカらしい。いっぽう進化の極致たる現世の哺乳類の頭蓋骨をみると、まるでパズルのピースみたいに、ギチギチに構成されている。個体発生は遺伝子のプログラムなので、進化の際には改変が最小限で済むよう、必要のなくなった骨とかは別の場所で再利用される。耳でいえば鼓膜と内耳をつなぐ耳小骨は元々顎の骨だったりする (このことによって味覚の神経が中耳を通るので、重症の中耳炎で味覚障害が起こる)。
他にも大型化の誘因はあるだろうけど、聴力発達説もひとつの有力な候補になりそう (進化は全くの専門外なので素人の感想です)。
◇「聴力発達など耳が進化」 英エディンバラ大などの研究
肉食恐竜ティラノサウルスは、聴力が発達するなど耳が進化したため大型化した可能性があるとの研究成果を、英エディンバラ大などのチームが、米科学アカデミー紀要に発表した。白亜紀(約1億4500万年~6600万年前)の末期に生息していたティラノサウルスは全長12~13メートルと大型。一方、白亜紀前期の地層からは全長2~3メートルの小型のティラノサウルスが見つかっていて、大型化した理由が謎だった。チームは中央アジア・ウズベキスタンの、ティラノサウルス類がまだ見つかっていない白亜紀半ば(9200万~9000万年前)の地層から、新種のティラノサウルス類の化石を発掘した。全長約3メートルと推計されるが、成長途中とみられる。化石の内耳を分析すると、構造は大型化したティラノサウルスとほぼ同じで、低周波の音がよく聞こえた可能性が高かった。さらに頭部の骨の密度は大型のティラノサウルスの方が新種より低く、すかすかの状態だったため、チームは「ティラノサウルスは耳などの機能の向上によって大型化したのではないか」と指摘する。国立科学博物館の真鍋真・生命進化史研究グループ長は「聴覚の感度が高くなったことが狩りに有利に働き、多くのえさを得て大型化する可能性を高めたのかもしれない。骨密度が低く、骨の軽量化が進んだことも大型化に役立った可能性がある」と話す。【永山悦子
ヤフーの記事は、せっかくわかりやすく書かれているのに、時間が経つと消えるので転載。
聞こえのしくみについてはこちらで触れたので、ご参考に。
*1:蝸牛が一定の大きさを必要とするので、小さい動物の内耳はその身体に比して大きい