Beyond the Silence

Sound of Science

幸運と偶然をたぐり寄せるもの

職場関連の飲み会は、5回中4回くらいはノンアルコールで通している。

理由は、家が繁華街から遠くタクシー代が馬鹿にならないからで、代行を使うという手もあるのだが複雑なルートを案内するのが面倒くさいからでもある。

最近では、アルコール入っていないのに酔っ払えるというのが特技のひとつである。

 

 

週末、そんな職場の飲み会がまた開催された。比較的飲み会の多い職場だが、その主犯たる上司がいない、珍しいシチュエーション。

平成16年に新臨床研修制度が始まって以来、地方大学のマイナー外科の生きるすべは、より多くの研修医に自分達の領域へ興味を持ってもらい、ローテートしてもらい、入局してもらうことである。学生のころから囲い込んで、卒業=入局=新人確保、という流れが断ち切られて以来、ローテートが義務化されている内科や外科、小児科などメジャー科と違って選択制であるマイナー外科はごく一部の大学を除き人材難にあえいでいる。某地方国立大某科などは、10年近く新人が入らなかったほど。

そういうわけで、幸いにして我が科をローテートしてくれた研修医が「勧誘」の対象になる。大学病院だけでなく市中病院も、関連病院として人材獲得に貢献せねばならない。その昔は、免疫のない学生を寿司・ステーキ・キャバクラetcで接待漬けにして入局させていたとかの噂も聞くが、今は医局員のポケットマネーで研修医を誘って飲みに行くくらいである。というより、一緒に働いた同士として普通に飲みに行く感覚であり、昔よりずっと健全な気がする。

 

 

まぁそんな飲み会だったわけだが、話題はメンタルヘルスに及んだ。研修医やレジデントの自殺のニュースを持ち出すまでもなく、精神衛生は若手医師をとりまく重大な問題である。最近メンタルの不調を訴える医局員が増えてきている気がしており、それは特定の病院に集中している。忙しい、上司が厳しい、理不尽、など原因はうっすらとわかっているのだが、医局は個々の問題としてそれを放置している。いや、わかっていても対処するのが困難、というべきか。そんな話のなかで、自分のこれまで辿ってきた道について考えた。

トラブルがつづき体調を崩した後輩の話になり、研修医から

「先生には同じような危機的状況になった経験はあるのですか?」的なことを聞かれた。その後輩はどこか自分と似た部分があるが決定的に不器用でコミュニケーションが苦手。対人関係の繰り返しである臨床家にあまり向かないタイプである。自分もそれに近いのだが、人に恵まれるという幸運、偶然のもとで経験を積み、年も取り、うまく立ち回れるようになったにすぎないかもしれない、と答えた。

 

 

人に言わせれば、それも含めて自分の性質であり特長であり、客観的にみると自分は医局ではわりと珍しい、緩衝剤になれるタイプの人間であるらしい。そういう他者からの評価が最終的に巡り合わせを決めていくのかもしれないが、一歩間違えば自分も後輩のようになっていたかもしれなかった。これから未知の困難が襲いかかってくるかもしれない。周囲に気を配り、人を活かし自分が活かされる、そういう振る舞いを続けていけば、やがて自分に返ってくる。そうやって生き抜いていこうと思った。

 

 

f:id:aurora3373:20170505122953j:plain