早いものでもう春、異動や花粉症の季節。
庭の桜も固いつぼみをつけ、開花の時を待っている。
本来ならばこの春で、異動のはずであった。医局に属する医師の人事権は本丸である大学の教授と医局長が握っており、様々な程度ややり方で医局員の事情を考慮して人材配置を決める。個々の希望は聞かれることもあるし、聞かれないこともある。当然ながら聞かれてもその通りになるとは限らない。今のボスは全員と面接をして人事を考える主義のようで、昨年の暮れに面談に行ってきた。2018年度での異動を言い渡された。ある意味栄転、ある意味左遷となる異動で、生活は明らかに苦しくなることから、ボスにはもうちょっと延ばしてくれと言ってみた。それでも必要とされることは嬉しくもあり、4月異動と言われても納得して受け入れるつもりでいた。
関連病院の人事が紛糾した。
ある関連病院でのちょっとした問題が引き金となり、多くの人事が玉突き式に動いて、その中に自分も含まれていた。異動先にポストがなくなったために現職場に残留になった。待遇は良いし人間関係も良好でストレスの少ない職場である。残ることに異存は全くないのだが、このままでよいのかと問う自分も確かにいる。
こと耳鼻科に限ってかもしれないが、市中病院の耳鼻科医はgeneralistである。耳鼻喉腫瘍の4分野を網羅するのが理想で、いわば何でも屋さん。対して大学病院の耳鼻科医はspecialistであり、各分野に精通する医師を目指して研鑽を重ねることになる。求められる医師像も能力も異なるが、どちらが自分にとって進むべき道かがわからなくなっている今日この頃。
手術や診断力といった診療技術とは別に、問題を難しくしているのが研究。大学病院は研究をするところ、という名目があり、実情は異なる*1にしても、大学院や留学を経て大学での上のポストを目指すというのがわかりやすいキャリア像。対して市中病院では研究力なんてものは大した武器にはならず、ひたすらに幅広い臨床力が求められる。研究も臨床もしたい、と若い頃思っていたけど、両方を同時にやるのは常人では無理なのである。
ところが、世の中は広いもので、研究と臨床を上手く高いレベルで両立してしまう優秀な人材が一定の確率で出現する。教授に求められるのは全く別の能力なのでボスはさておき、今のところ2名、そんな人材が医局の同じ分野にいる*2。そのうちひとりは同期で、わかりやすくいえばspecialistとしては同期に遅れを取っているわけで、大学病院に戻らないことにはその差は決して縮まることはない。
いっそのこと開業してしまうか (開業医こそ最高のgeneralist)、自分にしかできない分野での専門性を高めていくか (大学に戻るとなれば、その目算もある程度はついている)、もしくは専門性と汎用性を兼ね備えた市中病院の部長*3を目指すか (何でもハイレベルでできる部長はじつは少なく、うちの医局では現職場の部長を含めて2〜3人しかいない)。このくらいの年齢になれば誰もが突き当たる分岐点に、自分もさしかかった。まだ自分には選択肢がある、と思い続けていられるほうが楽。後戻りのできない地点を越えると、仮に適性がなかったときに地獄を見るので、あと数年以内に答えを出さなければならない。
そんなことを考えた春の一日。人生は短い。