Beyond the Silence

Sound of Science

医局のマネジメント

数日前に、研修医2年目の女医さんから増田 (anonymous diary)に反響の大きい投稿があった。

私が医療崩壊のトリガーになる未来

これが現実。研修医2年目の頃はギラギラしていて自分には無限の可能性があって何でもできるように見え、メジャー内科や外科に進みたくなるもの。誰も出産育児のことなど慮ってくれない。増田はよく見えている。

2018/07/01 08:41

 

上記のようにブクマしたのだが、この先生は2年目にして非常に先のことがよく見えておられる。というのも、研修医2年目というのはちょっと臨床に慣れて、特に1年目からローテートしている内科・外科の一般的な病棟管理*1が一通りできるようになってきた頃。どんどんできることが増え、自分の実力が伸びていくのを実感できる最初のピークなのだ*2

そんな時期に、花形の診療科で精力的に働く先輩達の姿をみて、このようになりたい、と思うのは自然なことで、17:15にこっそり病棟を抜けて子供の迎えに行く先輩はカッコ良くは見えないだろう。

そんな中で自分の将来を見据え選択することは、なかなか難しい。

 

 

生物学的な男女の差はどうしても覆せるものではないので、どうしても女性側が一時期キャリアを中断せざるを得ない。男性の育休が取りづらいという社会的な課題もあるが本記事では取り上げない。

その制約の中で最良を目指すとなると、問題は、いつどのような形でそのキャリアの中断を迎え、復帰するかという人生のデザイン。思い通りにいかないことのほうが多いけど、過ぎてしまった時間は取り返しがつかないので、なるべく若いうちから様々なキャリアパスがあること、人生における時間の使い方の選択肢について知っておいたほうが良いと思うのだ。女性医師だけでなくパートナーとなる男性も。

 

現場では非難囂々の新専門医制度だが、初期臨床研修終了後の数年間は臨床医としてみっちり修行する (この修行は「研修指定病院」でしないといけない縛りあり)必要がある。医学部医学科における女性の割合は年々増加していて、若干の偏りはあるだろうが3〜4割程度まで増えてきている。大学によっては女性のほうが多い学年もあるとか。なので、医師の生涯教育としての専門医制度も、この「半数女医時代」に対応していかなければならないことは自明なのだが・・・。

20代前半〜半ばでの学生結婚・出産や、30歳過ぎの専門医取得直後の結婚・出産 (大学院進学という「臨床を離れる手段」もある)が、半数女医時代の新しいキャリアパスになっていきそうではある。

 

 

花形の科 (循環器内科とか脳神経外科とか心臓外科とか消化器外科とか)では、多くの場合、臨床に全てを捧げて (=家庭を犠牲にして)働くことのできる人材が求められる。一方で増田の記事にも出ていた「マイナー科」*3は、急変が少なく時間の拘束も弱いことが多いため、色々な働き方がしやすい。

ただし、マイナー科の多様でフレキシブルな働き方を支えるのもまた、仕事に割くリソースの多い一部の人間であるので、科のなかでの不平等はどうしても生じてくる。医局の新しい仕事はその配分になるだろうな。

 

色々考えてたら、こんなツイートがTLに流れてきた。

 

医師の中で最もタフな分野のひとつである心臓外科の先生でも、働く女医のモデルケース病院の、休む女医の分をカバーする側として酷使されると持たない。地域中核病院の中堅で部下に子持ち女医さん、というと、自分と若干重なる部分もあるのだが、科ごとに負担の大きさが全く違うのと、うちの病院はメンバーの力量や人数的に少し余裕があるので何とかなっている。一時期、ひとり鬱になって-1になったときは本当にキツかったので、一見大丈夫そうに見える病院も、意外とギリギリのところで回しているのかもしれない。

医局総体としてのマネジメント能力が問われる時代になっていきそうな予感がするし、それをしない医局は今後生き残っていけないかもしれない。様々なキャリアパスを提示でき、特定の個人に負担が集中しない形でそれを実現できる医局、なんて書いてて思ったけどそんなの夢物語でしかない。いつか現実にできるだろうか?

 

そんなことを考えた夕暮れ。話変わるけどサッカー日本代表頑張れ。

 

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*1:入院患者の診察と内服や点滴の処方、増悪時の対応、手術のちょっとした助手など

*2:ちなみに外来診療や手術がまともにできるようになるのはずっと後

*3:内科・外科がメジャー科と呼ばれるのに対し、眼科、皮膚科などの専門性の強い、逆に言えば他の領域を苦手とする科はマイナー科と呼ばれる。両者の間に貴賤はない。我々耳鼻咽喉科・頭頸部外科も基本的に首から下が元気な人を扱うのでマイナー科の一員